詩誌「詩人散歩」(平成21年冬号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  思い出                          倉本佳代子


 夏の夜、夕飯が済むと、近所のおじさん達が団扇片手に浴衣姿で外へ出て来ます。私達子供達も外へ出て来て、おしゃべりしたり、線香花火をしたり、昭和の初め頃、平和な夏の夜を存分に遊んだ思い出が貴重なものとして、心にいつも心地よい微風を吹かせています。
 外へ出てきたお父さん達は何やら深刻な顔をしています。小さい声でヒソヒソと話をしているのは、もしも日本が戦争にまき込まれたらどうなるのかと云う様なことを、他の人には聞こえない様な小さな声で話していました。
 うす暗い外灯の夏の夜、いきなり打上げ花火が上り、人々の喚声が上がりました。隅田川で上げる花火がここ恵比寿でも見られたと云うことでしょうか。
 当時、恵比寿は田舎の様な所、暗い所が街中に有り、子供達ばかりでなく、大人の中にも幽霊の話が大好きで、一所懸命聞いたり語っている人が居ました。
 昭和十一年七月半ば、私は本当に幽霊というものに出会いとてもとても怖い思いをしましたがそれは後日のことにさして頂くとして、夕食後浴衣姿で涼みに外へ出たお父さん達、その何年か後には東京が爆撃されることになったり、平和だった東京も思いがけない事を経験し、事態は一変した中、私の子供頃のおじさん達や同年輩だった人達も、あれからどんな思いをして生きて来たやら、又は戦争の餌食にされてしまったことか、探し様もないまま、何十年。心残るまま、今はいづこ。
 あの時の幼い子も九十歳になろうとしています。 (平成二十一年九月二十八日)

  秋の一日                         山口ハル子


 コスモスの咲きけいとうの花も満開気がつけば秋も静かにあちらこちらに見られます。
 けいとうは種が飛んで来て自然にいっぱい咲いています。
 一人の暮しも秋を感じて日々過ぎて行きます。一人の子達夫婦はよく気をつけてくれて感謝して過しています。
 父さんは夢も見せてくれません。平和な日々暮しているのだと思います。
 何事もなく過ぎて行くことが幸な事だと思います。
 今日は日南海岸のテレビがありました。父さんも休暇で帰ると青島や鵜戸神宮に連れて行ってくれ、静かな青春時代だったと思います。
 戦争の真只中でありましたが、やさしくしてもらって幸な青春時代だったと思います。
 遠い日のこと思い出して一日一日が過ぎて行きます。