詩誌「詩人散歩」(平成22年冬号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  私の詩作                          浪 宏友


 ある高僧が言いました。「ありのままを、ありのままに書け」 なるほどと思いましたが、実際には、どうすればいいのか分かりません。
 ある時、私の作品を読んでくれた人が、何かしらを感じ、思いを巡らしてくれることを知りました。それは嬉しいことでした。
 やがて気づきました。私自身のありのままを、ありのままに書いて、読者に見ていただく。それしかないのだ。
 自分のありのままを書こうとすると、自分を自分に突きつけることになりました。それは辛いことでした。
 書いた言葉と、自分のありのままとの間に隙間ができました。隙間を埋めるために、苦心惨憺することになりました。
 私は思いました。この辛さを味わいつつ、隙間を埋める苦しみを繰り返す。それが、私の詩作なのかもしれない、と。
 時を経て、そうした積み重ねが、私を成長させてくれることに気づくことができました。
 あの高僧は、それを言いたかったのかもしれません。    

  お久しぶり                         中野典子


 九年前に他界した母の無二の親友がお亡くなりになった。母と同い年の七十四歳。
 十日前に、暑中見舞いのお葉書を手にしたばかり。呆然と立ちすくみ涙がそっと流れた。どうにもならない寂しさという穴が心に空いた。母を亡くしたときのそれを思い出した。
 才媛で、心優しく達筆な方だった。そういえば字が震えていたのはその為か。
 ご自身もご主人様を亡くされて悲しみの中お互いに頑張って生きましょうねと、私を励まして下さり前向きな方だった。 慢性の病と長年闘っていらしたから楽になられて良かったですね。今頃そちらではお久しぶりねと再会を喜んでいる姿が目に浮かびそっと穴が埋まった。
 又、お会いしましょう私は立派な人間になって母に誉めてもらいます。