まず人さま 浪 宏友 |
仏教に、四摂事(ししょうじ)と呼ばれる教えがある。「布施・愛語・利行・同事」がそれである。「四摂法(ししょうぼう)」とも呼ばれる。 「摂」は「摂受(しょうじゅ)」、すなわち相手を大きな心で受け入れることであろう。そのありかたやはたらきを、四つのキーワードで示したのが、四摂事なのであろう。 中村元先生の『仏教語大辞典』(東京書籍)に学ぶと、「四摂事」の意味のひとつとして、「社会生活上欠くことのできない四つの徳」があげられている。これは、自分が人とつながり合うとき、自分に欠かせない四つの徳であるにちがいない。 「徳」とは、真理に合った認識、思考、判断、行動を生み出すもとになる人間的な資質であると、私は理解している。「徳」を具えている人は、自他を共に幸せにし、現在と未来を幸せにする、そういう行ないができる人である。
四摂事の一番目は、「布施」である。正しいことを教える「法施」、財物を与える「財施」、身をもって人に親切にする「身施」、人の心から不安を取り除いてあげる「無畏施」などがある。互いに生かされ合い生かし合って生きている人間の真実に根ざした、本質的な行ないである。
四摂事は、智慧に支えられていることを忘れてはなるまい。智慧とは、真理に合った認識・思考・判断であり、真理に合った行ないを生み出す力である。智慧の土台なしには、四摂事という柱は建てることができないであろう。
これら四つは、すべて「相手のために」という精神で貫かれている。
「四摂事」の教えは、幼少年時代に父母から教えられた「まず人さま」を思い出させてくれる。 |