詩誌「詩人散歩」(平成23年秋号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  故郷づくり                         大場 惑


 「故郷」とは、もともとは、自分が生まれ育ったところであり、親しい人びととの交わりが、自分の人格形成に大きな影響を及ぼしてくれたところです。
 社会の汚濁に呑み込まれ、苦難に揉みくちゃにされたとき、ふと、帰ろうかなと想う先が故郷であるのは、そこが母の懐の如く、優しく自分を受け容れてくれるところであり、心身の安らぐところだと思えるからでしょう。
 自分には故郷が無いという人もいますが、おそらく、心身の安らぐところがない、自分を受け容れてくれるところがないというようなことだろうと思います。
 最近は「故郷づくり」という企画がそちこちで行なわれています。本来の意味から考えると、自分が生まれたところを改めてつくるというのですから、極めてナンセンスに思えるのですが、言葉というものは、使われているうちにもとの意味とは異なる別の意味を持つようになりますから新たな意味を理解する必要があります。
 このところの故郷づくりの企画は、おしなべて、人口密集の都会から人口密度の低い地方に、人を呼び寄せることを目指しているように見受けられます。しかしながら、過疎地帯に人を増やして、地域経済の足しにしようというような企画には、寂しさが漂います。
 「故郷づくり」と名乗るからには「心身の安らぐところづくり」が主眼であろうと思います。そのために、海も、山河も、田畑も、重要な要素かもしれませんが、それだけでは故郷にはなりますまい。
 故郷づくりというからには、共に暮らす人びととの間に豊かな人間関係を育くむことが第一のテーマであって欲しいと思います。親しみが深く温かで、その上活動的な人間関係のあるところこそ、心身が安らぐところであり、離れがたい気持ちになるところだと思うからです。