詩誌「詩人散歩」(平成24年春号)

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  三つの信頼                         浪 宏友


 釈迦牟尼世尊の教団が誕生した当初は、出家を希望する人は、修行僧に案内されて釈迦牟尼世尊のもとに赴き、出家の許可をいただいたのだそうです。
 そのため遠くの人の場合などはとてもたいへんだったようで、釈迦牟尼世尊は、三つの心がまえを持つ人なら修行僧が釈迦牟尼世尊に代わって出家させてよいことにしました。三つとは「仏陀に帰依する」「正法に帰依する」「僧伽に帰依する」というものです。
 これは、人からものを教わるときの、基本的な心構えにほかならないことに気付きました。
 仏陀に帰依するとは、教えてくれる人を信じ尊敬するということだと思います。正法に帰依するとは、教えてもらう内容を信じ、大切にするということでしょう。僧伽というのは、修業する人々の集まりということですから、僧伽に帰依するとは、自分と同じように学んでいる人々を信じ尊ぶということになります。
 職場で先輩から仕事を教わるとき、先輩を信じ尊敬し、教えてくれる内容を信じ大切に思い、共に仕事をする仲間たちと力を合わせる気持ちになれば、仕事の覚えもよく、成長も早まることでしょう。
 逆に先輩が信じられない、教わっている内容が信じられない、仲間たちが信じられないということであれば、身を入れて学ぶことはできないのではないでしょうか。
 私は、皆さまにものごとをお教えする立場に立つことが多いのですが、このとき、学んでくださる皆さまの心に、この三つの条件が揃うかどうかが、重大な意味を持つことになります。
 私は皆さまから信じていただいているだろうか。私がお話する内容を信じてくださるだろうか。ご一緒に学んでいらっしゃる方々同士が、良い関係でいらっしゃるだろうか。これらの条件が揃っていますと、皆さまと私が一体となって、学びを深めていくことができることを、何度も経験しているからです。そして私は、この三つの信頼という条件が満たされるように、事前に学び、準備し、努力させていただくのです。
 なかでも、もっとも重要なのは、私の人間性だと思います。私を人間として信頼してくださればこそ、わざわざ私の話を聞きにきてくださるのでしょうし、私のお話しする内容を聞き取ってくださるのだと思います。皆さまの信頼にお応えできる私になることが、なによりも先に重大なことなのだと、心を引き締めているところです。