詩誌「詩人散歩」(平成26年夏号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  ビジネス縁起観                      浪  宏 友


 両親が仏教徒だったために、子どものころから仏教に触れて育ちました。仏教教理に興味を持ったのは自然なことでした。妙法蓮華経を学び、阿含経などの原始仏典を学び、仏教の解説書や理論書などにも目を通しました。いつしか、周囲の人びとと比べれば、格段に仏教に詳しい人間になりました。

 就職した先で、電気設備の管理技術者、学術研究所の職員、舞台のディレクターなど、一貫性のない職歴を経て定年退職した直後、これまた一貫性を欠いて経営コンサルタントを開業しました。経営者をはじめ管理職、監督職、一般従業員などを対象に、コンサルティングに励みました。
 この業務を続けるために、これまでに学んだ仏法を基盤にして、経営・ビジネスのための理論とノウハウの開発に努めてきました。
 経営コンサルタントという仕事の性質上、宗教色はタブーです。しかし、本来の仏教は、理性と実践の教えであり、いつでも、どこでも、だれにでもあてはまる普遍性を備えた教えであって、最初から宗教色はありませんでしたから、この点の心配は無用でした。
 仏教の教えは、高尚な概念と洗練された言葉で緻密に語られていて、取っつきにくくまた難解でもあります。これを泥臭い概念、汗臭い言葉で、取っつきやすく、また分かりやすく表現できないだろうかと考え、努力しました。
 そのようにして開発した経営・ビジネスに関する理論とノウハウが蓄積されてきましたので、これらを整理して「ビジネス縁起観」と名付けました。仏法から生み出されたビジネスのための理論ですという気持ちでした。

 経営・ビジネスに携わる人びとは、おおむね現代科学の基本的な考え方を受け入れています。このため「縁起の法」の表現のひとつである「因・縁・果・報」を「原因・条件・結果・影響の原理」として解説しますと、自然に受け入れてもらえます。その後の展開に、これが大きな手掛かりとなりました。
 仏法と言えば「四諦」です。四諦は「問題解決理論」として説明し、「苦・集・滅・道」を「問題・原因・解決方針・解決の方策」など、対象者に応じてさまざまに表現しました。
 「四諦」の後半の「滅・道」だけを取り上げると「企画立案理論」になりました。ここから「四諦」は、よりよい未来を開拓するための教えだったのだと気付きました。
 仏法の決着は真理の実践であり、八正道・六波羅蜜の実践です。どの理論を説明するときも、最後は真理の実践を内容とする話で締めくくりました。
 経営者に必須の「経営理念」、人材育成のための「ソフトスキル」などを研究するうちに、ここにもさまざまな教えが織り込まれていきました。
 このほかにも、必要に応じてさまざまな教えを取り上げ、経営・ビジネスにおける概念や言葉で表現する工夫を重ねました。
 この試みがどれほどの価値を持つのか分かりません。それでも、ビジネス縁起観の形で仏法を学び、実践して成果を出した人もいますし、成長した人もいます。この事実を前にして、この試みも捨てたもんじゃないなと一人でうなずいている私です。