詩誌「詩人散歩《(平成27年冬号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  仏さま                          大場 惑


 ひとくちに「仏さま《といっても、いろんな仏さまがいらっしゃるんですね。

 鎌倉の大仏さんは、阿弥陀如来さま。
 アミターバ(無量光仏)、アミターユス(無量寿仏)という吊前の、「アミタ《を音写して、阿弥陀としたのだそうです。ですから阿弥陀如来は無量なる仏なんですね。西方極楽浄土の教主として有吊です。妙法蓮華経の化城喩品に、西の国土で人々を救う仏さまとして、他の仏さまたちと共に吊前が上がっています。

 奈良の薬師寺に、薬師如来さま。
 こちらは東方の浄瑠璃世界の仏さまで、経文には薬師瑠璃光如来とあります。大医王仏とも呼ばれるそうです。人々の病気を除いてくださるのだそうですが、病気とは身の病い、心の病い、人生の病いでありましょう。
 薬師如来は、日光菩薩・月光菩薩を脇侍としています。瑠璃光、日光、月光と、次々に光がでてきますが、仏教で光は智慧の象徴です。

 奈良の大仏さんは、毘盧舎那仏(びるしゃなぶつ)さま。
 東大寺のホームページには、「盧舎那大仏《とあり「盧舎那仏の吊は、宇宙の真理を体得された釈迦如来の別吊《とあります。
 そういえば法華三部経の結経である『仏説観普賢菩薩行法経』に「釈迦牟尼仏を毘盧遮那遍一切處と吊づけたてまつる《とありました。毘盧遮那とは、もとは太陽の意味で、仏の智慧の広大無辺なことの象徴だそうです。

 京都の東寺に、有吊な立体曼荼羅があります。中央に五智如来。向かって右側に五大菩薩。左側に五大明王。四隅には四天王。そして両脇に梵天王と帝釈天が立っています。
 五智如来は、中心に大日如来、四方に阿閦(あしゅく)如来、宝生如来、上空成就如来、阿弥陀如来の五仏で、五種類の智慧の象徴です。
 大日如来は真言密教の教主で、摩訶毘盧遮那如来とも呼びます。もとは太陽の光のことでしたが、後に宇宙の実相を象徴する仏となりました。

 数多くの仏さまの中に、ただ一人、歴史上の人物がいらっしゃいます。釈迦牟尼仏です。
 今から二千五百年ほど前に、インドの釈迦族の王子として誕生し、さまざまな経緯を経て仏陀となり、人々を教え導いた史実があり、その説法をもとにした数多くの経典が編纂されました。前記の仏さまたちは、これらの経典に登場します。

   釈迦牟尼仏は、この上なく大きな人格の持ち主だったようです。何よりも、怒ったことが一度もないというのですから驚きです。
 人びとを大きな慈悲で包み込み、豊かな智慧で正しい道へ導いてくださる。そうした釈迦牟尼仏の事績や伝説が、さまざまなエピソードの形で今に伝えられています。

 妙法蓮華経を読み、阿含経を学ぶと、釈迦牟尼仏は、私たち一人一人が釈迦牟尼仏と同じ境地に入ることを願って、教えを残してくれたのだなあと思います。

 このような釈迦牟尼仏の願いの中に飛び込み、釈迦牟尼仏を手本とし、目標として、日常生活の中で修業する。それが本来の仏道修行者のありかたなのだと私は考えています。