詩誌「詩人散歩《(平成28年冬号)

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◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  伝統のカトゥー織                    浪 宏友


 FIDR(ファイダー、公益財団法人国際開発救援財団)から「ファイダーニュース」の九十四号を送っていただきました。
 表紙にはカトゥー織を身に着けた女性の満面の笑顔がありました。まわりに綿糸らしい糸の束が数多く架けられているところを見ると、ここはカトゥー織の作業場かもしれません。この女性は、カトゥー織に携わっている一人なのでありましょう。FIDRとカトゥー族の女性たちの地道な努力が、この女性の満面の笑顔を生み出したのだと、この号の特集が語っているように受け取れます。

 特集の表題は「だから、わたしたちは変わった〜地域の『宝』と共に歩いていくために〜」です。

 「私たちは変わった」とは、カトゥー族が変革したことを言っているのでありましょう。「歩いていくために」は、未来へ向けての創造的な姿勢を言っているのでありましょう。

 カトゥー族とは、ベトナム中部の都市ダナンの郊外クアンナム省ナムザン郡の山岳地帯に暮らしている少数民族です。
 ベトナムでは、三十年ほど前に政策転換がなされ、市場経済が取り入れられました。自給自足的な生活を営んできたこのあたりの農村にも市場経済の波が押し寄せてきました。
 しかし、この変化に対応しきれないでいるうちに、他の地域に比べて貧しい状態になってしまったようです。経済的に貧しい状態になっただけでなく、精神的にも覇気を失ったらしく、この記事には「民族の誇りを失いかけていました」とあります。

 記事には、この地域におけるFIDRの活動が次のように記されています。
 「地域全体の生活の底上げを目標に、住民との対話を重ね、地域に必要な様々な活動の実施を後押ししました。その多くは、家畜の飼育や識字教室など彼らにとって未経験なことへの挑戦でした」
 こうしたFIDRのスタッフたちの、真心こめた活動の中で、FIDRとカトゥー族の間に確固たる信頼関係が築かれました。

   経営コンサルタントをしていますと、よく、経営者たちの無いものねだりに出会います。あれがない、これがないと不平不満を並べ立て、ちっとも前に進まないのです。本当は、無いものをあげつらうよりも、有るものに目をつけて活用すべきなのです。そのようにして成功した経営者も少なくありません。

 カトゥー族には、カトゥー織がありました。家庭ごとに、母親から娘へと受け継がれてきた伝統の織物です。綿花を育て、紡ぎ、織り上げてきた衣装は、お祝いのときなどに着用する晴れ着などになっているそうです。

 FIDRのスタッフは、カトゥー織が独特の織物であることに気づき、これを産業として役立てることを勧めました。半信半疑ながら活動に参加したカトゥー族の女性たちも、次第にその価値に気づき、積極的に取り組むようになったようです。
 今では、カトゥー織が都会の店頭に並び、外国人観光客のお土産になるなどして、この織物に取り組む女性たちに現金収入をもたらすまでになりました。

 ここに到達するまでに、二十年の歳月を費やしたことが、この記事に述べられています。その間、さまざまな困難もあったと思いますが、経験に裏付けられたFIDRの信念と地道な努力が、実を結んだものでありましょう。

 このような活動を応援したいと思われましたら、FIDRまでお声をかけていただければ、ありがたいと思います。
  ホームページ http://www.fidr.or.jp/
  電話 03-5282-5211(FIDR事務局)