詩誌「詩人散歩」(平成13年冬号)
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  秋近し                       山口ハル子

 今朝の味噌汁はからい。気がねすることもない一人暮らしに味みをすることもない。父さんは今朝の味噌汁はうまいねと言ったり,時には薄い味だねと言ったり,なんとかかんとか老二人の会話があった。今は一人の食事である。梅一つをそえて。
 仏壇に手を合せ写真と話をしている。一人の暮らしはさびしいものである。足りない私であったかと過ぎ去りし日々を思いごめんなさいと詫びている。少し痴呆がはいっていたが私が病院に行くとお母さんと言ったり名前 を呼んだりしていた。お母さんの一言に私の心は慰められる。
 「貧しさも子を失いし悲しみも心にきざみ古希を迎うる」遠き日につくった歌である。
 こうろぎが鳴いている。秋の夜は更けて行く。
 父さんおやすみなさい。又明日もお話しましょう。