詩誌「詩人散歩」(平成30年春号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  三つの言葉                 浪 宏友


 本号掲載の、北 貢一さんのお話に「減師半徳」の戒めがあります。このお話を読んで、私は二つの言葉を思い出しました。
 中学生の私に詩の手ほどきをしてくださったのは、岩崎隆一さんです。高校時代、大学時代、そして立正佼成会の職員になってからも、引き続きご指導を頂きました。
 私は、庭野日敬師による妙法蓮華経を学んでいましたが、しばしば誤った理解をしているのを見て、岩崎さんは厳しくそして丁寧に正してくださいました。
 ある日、岩崎さんから、一つの言葉を頂きました。
 「君は、誰も登ったことのない山に踏み入ったのだ。藪を開き、道を作りながら登りなさい」
 はじめはその意味がよく分かりませんでしたが、自分の信じる道を行け、人の真似をするな、人からもてはやされることを望むなという戒めであることが、おいおい理解できました。
 私が四十代に入ったころ、東京大学名誉教授の玉城康四郎博士にお会いして、短い期間でしたが、教えを頂きました。
 私は玉城博士のご論文を学び、「全人格的思惟」と「神秘思想」を軸とした論文めいたものを書き綴って、玉城博士にご覧いただきました。博士はうなずいてくださりながらも、この論文は、学問の世界では受け付けてもらえないだろうとおっしゃいました。
 それからしばらくして、玉城博士のご自宅で行われる座禅会に参加させていただきました。奥に呼ばれ、玉城博士の前で結跏趺坐した私に、博士は「ゴーイング・ユア・ウエイ」と、励ましをくださいました。「君は意義ある道を歩んでいる。そのまま行きなさい」と聞こえました。私は一礼して座禅の席に戻りました。
 北 貢一さんは、私の先輩であり、師です。「減師半徳」の戒めは、私に向かって発せられた言葉のような気がします。
 私は多くの師、多くの先輩たちに導かれましたが、その中心となっているのは庭野日敬師です。そしてその先には釈迦牟尼世尊がいます。
 私がだらしない姿を呈すれば、諸師、諸先輩、そして庭野日敬師、釈迦牟尼世尊の徳を減ずることになります。そんなことになってはいけません。人の真似をせず、人からもてはやされることを望まず、ただ、釈迦牟尼世尊、庭野日敬師、諸師、諸先輩の教えを貫く真理を学び、実践して、自分の役割を果たすことしかありません。私にはそれしか、師の徳を減じない自分になる道が見当たりません。
 三つの言葉は、私に、ただ一つの道を示してくださいました。