詩誌「詩人散歩」(令和02年冬号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  本の紹介                  浪 宏友


中央学術研究所編『宗教間対話座談会 宗教に明日はあるか?』
               佼成出版社(2020年3月5日発行)
               定価2000円+税

 中央学術研究所の所報『チャンダナ』282号の研究所ニュースに、「『ー宗教間対話座談会ー宗教に明日はあるか?』発刊」と題する記事が掲載されていました。中央学術研究所創立50周年を記念しての発刊だそうで、次のようにありました。
 「中央学術研究所では、2014年5月から2018年5月にかけて、神道、キリスト教、イスラーム、仏教の各宗教を専門とする研究者による、宗教間対話座談会を8回(加えて企画会議を2回)主催しました」
 この記事を読んですごいことをやったんだなと思いましたが、同時に中央学術研究所なら出来るなとも思いました。私はかつて、中央学術研究所の所員として事務を担当したことがあり、さまざまな宗教の先生方が出入りなさっているお姿を拝見してきましたから、このような企画を聞かされても違和感は全くありませんでした。続いて、座談会の参加者を紹介していました。
 「そこには、國學院大學名誉教授の安蘇谷正彦氏(神社神道)、聖マリアンナ医科大学名誉教授の坂本 堯氏(カトリック)、中央大学名誉教授の眞田芳憲氏(イスラーム)、筑波大学名誉教授で東洋大学学長の竹村牧男氏(大乗仏教)、上智大学名誉教授のホアン・マシア氏(カトリック)、東洋大学名誉教授の森 章司氏(釈迦仏教)ら、各宗教の研究者たちが会しました」
 このメンバーを見て、これはすごい方々を集めたものだなと思いつつ、懐かしさも感じていました。それというのも、私が中央学術研究所に在籍していたときに、謦咳に接した先生方のお名前があったからです。坂本 堯先生、眞田芳憲先生、森 章司先生のお三方です。先生方は、私などとっくにお忘れだと思いますが、私のほうでは忘れがたい方々です。こうしたわけで、私も、この本に興味を覚えましたが、なんだか難しそうだなと二の足を踏むうちに、忘れてしまっていました。
 ところが先日、中央学術研究所から贈呈していただいちゃったのです。橋本雅史所長のご挨拶文まで入っていました。こうなれば、読まないわけにはいきません。
 その時私はある原稿に取り掛かっていましたので、すぐには本を開くことができませんでした。急いで原稿を仕上げて時間をつくり一気に読ませていただきました。 案の定、難しくて、私の歯の立つものではありませんでした。ただ、お話し合いをなさる先生方の熱気がじんじんと伝わってきました。読み終えてしばらくは、圧倒された私が黙って本の表紙を見つめていました。
 お話の内容に立ち入る力は私にはありませんが、お話し合いにおける皆さまのお姿は印象に残りました。
 ご自分の専門とする宗教を噛みしめるようにお話しなさっていました。他の宗教の先生方から遠慮のない質問が発せられていましたが、それは批判でもなく、非難でもなく、ただ求道心に見えました。そして質問を受けた先生方の対応も謙虚でした。それぞれの宗教で培われた高い人格が、何の壁も作らずに交流なさっているお姿には、聖なるものが感じられました。
 私は、感銘を受けた本は、手の届くところに置いて随時読み返しています。しかし今回だけは、それで終わらせてはいけないという気持ちになりました。これは皆さまにご紹介しなければならない、と。
 その気持ちから、この欄を借りて、この記事を掲載させていただくことにしました。ぜひ一度、お手にとってご覧いただきたいと思います。