詩誌「詩人散歩」(令和03年春号)

yuyake
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  あぶり出し                 大場 惑


  子供のころの遊び

 子供のころ、あぶり出しを遊んだことがある。
 蜜柑の果汁をお皿に絞り出し、小筆に浸し、白い紙に文字を書く。これが乾くと何 も見えなくなる(という予定なのだが、実際には果汁の色が残って、少しだが見えて しまう)。乾いた紙を火鉢にかざすと文字が黒く現れる。秘密の手紙などと称して遊 んだものである。
 水に浸すと文字が浮き出るというものもあるという。みょうばんで書いて乾かした ものを、水に浮かべると文字が出るのだそうだ。
 京都の貴船神社では、水に浮かべると文字が出るおみくじがあるという。不思議さ いっぱいで、おみくじの有難さが倍増する。これは、特殊なインクを使っているらし い。

  潜在意識     人から嫌なことをされると、ムッとする。これなどは、仏教的に見れば、自分の内 面があぶり出されている瞬間だと言える。「ムッとする」とは、怒りがこみ上げてく ることを言っている。これは、自分の中に、自分本位の執着があることを示してい る。執着がなければ「嫌だな」とは思っても、怒りの感情がこみ上げてきたりはしな い。
 俺はできた人間だなどと表面を飾っていても、何かあれば、潜在意識に巣くう執着 があぶり出され、とんでもないことを口走ったりする。長い間かかって培ってきた信 用が、この一言で潰えたり、人間関係が険悪になったりする。
 自分の執着があぶり出されたらどうするか。なんとか繕って済ませようとするか。 さらに覆い隠そうとするか。いっそのこと開き直るか。自己反省をして自分を治す努 力に入るか。それぞれの姿がそこに現れる。あたかもあぶり出しのように。