詩誌「詩人散歩」(令和04年春号)

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◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  カンボジア小児外科支援プロジェクト  浪 宏友


 FIDR(ファイダー、公益財団法人国際開発救援財団)から、「FIDR NEWS114号」をお送りいただきました。
 表紙を見ると、幼い少年が、ベッドの上で、包帯でぐるぐる巻きになった右足を真っすぐ伸ばしています。大怪我をしてこの病院に入院し、治療を受けたのでしょう。こちらから見て少年の左側に母親の笑顔があり、右側に看護師のあたたかなまなざしがあります。少年も安心した表情をしています。表紙写真の説明には「クラチェ州病院の新病棟にて小児外科患者と保護者に寄り添う看護師長」とあります。関連記事に「2021年12月、FIDRが建設をすすめてきたクラチェ州病院の新外科病棟・産科棟がオープンしました」とありました。この新外科病棟での一コマなのでありましょう。

 カンボジアには、首都プノンペンなどに、立派な病院がありますが、そこで診察を受けられるのは富裕層の人々だけなのだそうです。一般の人々からみれば、それは「誰かの病院」であって、別世界の病院なのです。
 FIDRの方々は、これではいけないと感じ、よりよい医療を広めるためには「みんなの病院」が必要だと思ったのでありましょう。「みんなの病院」は、地元の人々みんなで建設してこそ実現する。FIDRの方々はそう考えたに違いありません。

【補足】FIDRは、(富裕ではない)一般市民や貧しい人びとがよりよい医療を受けるために、彼らが利用する公立病院(=みんなの病院)の改善が必要だと考えています。この考えに基づき、いずれも公立病院である、国立小児病院やクラチェ州病院で小児外科支援に取り組んできました。

 クラチェ病院の新病棟の建設に携わってきたFIDRの方が、以前の病室について述べている記事がありますので、一部、ご紹介します。
 「老朽化した旧外科病棟では、大部屋ひとつにベッド32床がありました。仕切り壁やカーテンは一切なく、男性・女性、大人・子どもの区別なく同じ空間で寝泊まりします。毎日の包帯交換や傷の処置はベッドの上で行ないます。看護師が患者の衣服をめくり、肌とともに患部・創部を露出させますが、周りの人たちからは丸見えです」
 病室の衛生環境についても、述べておられます。
 「消毒液や食べ物の匂いに、汗や膿んだ傷の匂いが混じり合い、薄暗い部屋で、板のベッドにただ寝かせられる。掃除が行き届かず蜘蛛の巣やホコリだらけの天井を見上げて過ごす」
 こうしたありさまが、公立病院の一般的な光景であり、誰も違和感を持たなくなってしまっているというのです。そして、「カンボジアでは医療従事者が患者より上の立場にあるので、改善点や不満を患者が口に出して伝えることはほぼありません。耐え忍びます」とあります。こうしたことから、公立病院の信頼度・満足度は高くならなかったようです。

 FIDRは、「カンボジア小児外科支援プロジェクト」を立ち上げ、まずカンボジアの首都プノンペンの国立小児病院で、医師・看護師の人材育成に取り組みました。  次いで、クラチェ州で小児外科医療の体制づくりに取り組みました。人材を育て、医療機器を整備し、4年をかけてようやく新病棟建設にいたったそうです。その成果が表紙の少年の写真として現れているのだと思います。

 FIDRの方々は、地元の人々が、自分たちの力で自分たちの問題を解決し、FIDRがいなくなってもその歩みを自立的に続けることを願って、地元の人々と共に考え、共に行動してきました。それは、生易しいことではないと思いますが、その成果がひとつひとつ形になって現れています。

 FIDRのことをお知りになりたい方は、事務局までお電話くださるか、WEBサイトをご覧ください。TEL03-5282-5211/www.fidr.or.jp
(浪 宏友)