詩誌「詩人散歩」(平成14年夏号)
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  ありがとう                         山口ハル子

 週に一度、整形外科に通っている。
 バス停が家の近く、病院も近くでたすかっている。病院のバス停が廣い田んぼの中ほどで下りると田の中に落ちそうであった。
 足腰が痛い人が多く、私も杖をつきながらである。運転手さんに、もっと病院の近 くであればよろけても病院の塀につかまれるけどといゝましたら「宮交の本社に言っておきますわ」とのことでした。
 それから間もなく病院の近くになおしてありました。うれしく思いました。通われる皆さんもよろこんでおられると思います。運転手さんありがとうございました。
 心が暖かく なった一日でありました。

  雀の御礼                         高丘 浩

 ある人里離れた所に、おじいさんと、おばあさんが住んでいました。おじいさんが外で仕事をしていると、パタ、パタパタパタパタという音がきこえてきます。おじいさんは何の音だろう、と思い、辺りを見廻しましたが、その廻りには変ったことは何もありません。不思議に思いつゝも又仕事をしていますと、パタ、パタパタパタパタはずっと続いています。
 おじいさんの立っている後に一本の木がありました。アッ、あそこかな、と思い耳をそばたてますと、どうやら木の天辺から聞えてくるらしい、と思い、木から少し離れて天辺を見ましたが、そこからでは何も見えません。でも音はそこから聞えてくる事には間違いないと思ったので、おじいさんは梯子を持って来て木に立てかけ、足が不自由なので梯子から落ちない様気をつけ乍、木の天辺が見える所迄登りました。
 そうしますと、何とそこには風に吹かれ、地から舞い上ったビニールの紐がこまかい網目の様になって、からまり合い、その中に雀が一羽ほそくなったビニールに足をからまれて身動き出来ず、もがき苦しんでいるのです。パタ、パタパタパタはその音で、人間の顔を真近かに見て、尚さら恐怖が増し、激しくなっているのです。成程、と思ったおじいさんは不自由な足を庇い乍梯子を降り、家の中から糸切り鋏を持って来て、又梯子を登り、木の天辺の枝や葉にからまっているビニールを切ってゆき、とう々々雀の足をグル々々巻きにしているビニールを全部切り離してやりました。
 やっと自由になった雀は大喜びで一目散に空に向って飛び去りました。おじいさんもおばあさんも清々しい気分を味わいまして、いく日かあと台所のガラス窓越しに山々を眺めていましたら、その目前に二羽の雀が飛んで来て窓枠に並び揃って深々と最敬礼して飛んで行きました。あの雀は先日の雀で夫婦でお礼に来たんだよ、とおじいさんは言いました。