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社長が社員を呼んでいます。 「○○君、○○君、○○君」 社員は、返事もしなければ、振り向こうともしません。社長は、顔を真っ赤にしながら社員のすぐ後ろに言って、バカでかい声で怒鳴ります。 「○○君!」 社員は、びっくりして、振り返ります。 すると社長が言います。 「呼ばれたら、返事をしろ!」 社員は、目を吊り上げて怒っている社長を見て、戸惑うばかりです。
このとき、社員には、社長の呼び声が聞こえていなかったのです。機械の音の中、細かい仕事に身心が集中していたのです。
智慧のある社長なら「これだけ呼んでも返事がないということは、聞こえていないのかもしれない」くらいのことは考えるでしょう。そこで、様子を見て、自分の声が聞こえないのは、機械の音が大きいからだとか、作業に集中しているからだとか、見て取るにちがいありません。
あの社長は、機械音で自分の声が聞こえないのかもしれないなどと考えもしません。社員が仕事に集中していることなど見ようともしません。相手の状況など、どうでもいいのです。ただ「呼んだのに、返事をしない」という、その一点に向かって、怒りまくっているのです。
奇妙なのは、社員を呼ぶときは、機械音の中で遠くから呼んでおいて、怒鳴るときは、社員のすぐ後ろまで近づいて大声を出していることです。やることが、まるで正反対です。智慧もはたらいていませんし、思いやりなど微塵も感じられません。
怒りは、人を愚かにします。愚かになるとますます怒りやすくなります。自分がそうならないように気をつけなければいけません。 (浪)
☆「詩人散歩」令和03年秋号に掲載
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