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清涼飲料水にネクターというジャンルがありました。この吊前、以前どこかで聞いたことがあると思っていましたら、ギリシャ神話でした。ギリシャ神話に出てくる神々の飲み物がネクタルで、おそらくここからネーミングしたのでしょう。 オリュンポス山の頂上には、主神ゼウス、その妻ヘラをはじめとする十二柱の神々が住んでいました。その宴席で振る舞われたのが神酒ネクタルで、上老上死の霊薬でもありました。 神々の盃に、ネクタルを注いで回ったのはゼウスとヘラの娘で青春の女神ヘーベーです。 一方、ヘーラクレースは、数々の冒険の後神の座に召し上げられました。そのときヘーベーはヘーラクレースの妻となりました。このためネクタルを注いで回る者がいなくなってしまいました。 ゼウスは自ら鷲に姿を変えて、トロイアの王子ガニュメーデースを誘拐してきました。以前から、その美しさに心を引かれていたのです。ゼウスはガニュメーデースに永遠の若さを与え、神々の宴席でネクタルを注ぐ役につけました。 黄道十二星座のひとつにみずがめ座があります。天に上げられたガニュメーデースです。ガニュメーデースが抱えるみずがめは、誘拐される時に持っていたもので、ネクタルを注ぐものではないそうです。 今はネクタルがネクターとなって、人間たちが飲んでいるのですね。 インド神話に語られる神々の飲み物で、上死の妙薬アムリタが誕生する伝説は壮大なものです。 ウィキペディアには次の記述があります。 「ヴィシュヌ神の化身である巨大亀クールマに大マンダラ山を乗せ、大蛇ヴァースキを絡ませて、神々はヴァースキの尾を、アスラはヴァースキの頭を持ち、互いに引っ張りあうことで山を回転させると、海がかき混ぜられた。海に棲む生物が細かく裁断されて、やがて乳の海になった。《 大きな山を大きな亀の上に乗せ、長い蛇を巻き付けて頭と尻尾を大勢で交互に引っ張るというのです。海をかき混ぜるのですから、それぐらいのスケールになるのでしょうね。この攪拌は1000年もの間続けられたそうです。 攪拌によって乳のようになった海から、さまざまなものが生まれてきました。 白い象アイラーヴァタ、白い馬ウッチャイヒシュラヴァス、牝牛スラビー。これらは聖獣と言われます。 宝石カウストゥバ、願いを叶える樹カルパヴリクシャ、聖樹パーリジャータ。 天女アプサラス、女神ラクシュミー。ラクシュミーはその後仏教に取り入れられ、吉祥天女となりました。 最後に天界の医神ダヌヴァンタリが妙薬アムリタの入った壺を持って現れました。 アムリタは、上老上死の妙薬です。この後神々とアスラの間でアムリタの奪い合いが続き、最後に神々のものとして落ち着きました。 古代の中国には、甘露(かんろ)という飲み物の伝承があるそうです。中村元編『仏教語源散策』(東書選書)には、「古代中国では、天子が仁政を行うめでたい前兆として天から甘露が降ると考えられていた。甘い上老上死の霊薬である。《 古代インドから古代中国へ仏教が伝えられたとき、これに混じってインドの伝承も伝えられました。伝承のひとつに、神々の飲み物アムリタがありましたが、中国ではこれも甘露と呼ぶようになりました。 してみると甘露には、二つの系統があることになります。 日本では、美味しいお酒や飲み物に満足すると、「甘露、甘露《と言って喜んだりします。この時の甘露は、中国系なのかインド系なのか、どっちなんでしょうね。 (浪) 出典:清飲検協会報(平成22年12月号に掲載) |