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永遠の命を求めるギルガメシュが、はるばるウトナピシュティムを訪ね、どのようにして永遠の命を得たのかと問いますと、ウトナビシュティムは、次の話しを始めました。 大河ユーフラテスの近くに都城シュルッパクがありました。それはたいへん古い町で、神々と人間が住んでいました。 あるとき、神々は、洪水を起こしてこの町を滅ぼすことにしました。その理由は分かりません。 しかし、神々の中で知恵の神エアだけは、すべての人間を滅ぼすことに疑問を持っていました。 その夜、いつものように葦の小屋で眠っていたウトナピシュティムの夢枕に、エア神が現れて、告げました。 「ウトナピシュティムよ、家を打ち壊して舟をつくれ。持ち物をあきらめて、おまえの命を救え。すべての生き物の種子を舟へ運びこめ」 そして、船の寸法を詳しく説明しました。 目覚めたウトナピシュティムは、これは夢ではない。まさしくエア神のお告げだと信じて、舟をつくることにしました。 ウトナピシュティムは、一族の者を集めてお告げにあった通りの寸法で舟をつくりました。骨組みが出来上がり、部屋が作られ、帆柱が立てられました。 七日目に方舟は完成し、持ち物を入れ、一族の者たちや野の獣たち鳥たちも入りました。 八日目の朝から、雨が降り始めました。雨脚はすさまじくなり、雷鳴がとどろき、風が荒れ狂いました。舟がぐらりと揺れて、浮かび上がったのが分かりました。そのまま流されるに任せるしかありませんでした。 雨は六日と六晩続きました。ウトナピシュティムは、その間、一睡もしませんでした。神々のなさることをすべて見ておきたかったからです。 七日目に雨は止み、静かになりました。方舟の蓋を開けると光が入ってきました。一面が水に覆われ、生きる者のすがたはどこにもありませんでした。 雨が止んでから七日目、ウトナピシュティムは鳩を放しました。鳩は間もなく戻ってきました。どこにも休む場所がなかったのです。 それから数日後、燕を放しました。燕も休む場所を見つけられずに戻ってきました。 さらに数日後、大鴉を放しました。鴉は帰ってきませんでした。ウトナピシュティムはすべての鳥を放し、神々にいけにえを捧げました。神々がこれを見つけて、集まってきました。そして、人間が生きていることに驚いたようでした。 神の一人が言いました。 「ひとりも生きてはならなかったのに」 別の神が言いました。 「それは、エア神のしわざだろう」 エア神が言いました。 「洪水でなくてもよかったのだ。狼、飢饉、ペストで人間には十分だった。ウトナピシュティムは、神を信じて生き永らえた。今は祝福すべきときだ」 そこで神々は、ウトナピシュティムに永遠の命を授けたのでした。 このお話しには、有名な裏話があります。 大英博物館の一職員が、北メソポタミアから運ばれてくる、楔形文字が刻まれた粘土書版を整理していました。 ある日、たまたま眺めていた粘土書版に、旧約聖書に記されているノアの方舟の物語によく似た話が書かれているではありませんか。驚いた職員が、急ぎ上司に報告し、それから大騒ぎになりました。 その後解読されたのが、ここにある、ウトナピシュティムの洪水物語でした。 世界各地に洪水伝説があります。日本でも、いくつもの洪水伝説が民話として伝わっています。昔から、各地で、多くの人々が、洪水に悩まされてきたのでありましょう。(浪) |