詩誌「詩人散歩」(令和07年秋号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  わすれなぐさ            浪 宏友

二人は川沿いの道を歩いていた
川は昨日の雨で水かさを増していた
少女は川岸の水面近くに咲く青い花をみつけた
「まあ きれい」
青年は青い花へと川岸を降りて行った

花を摘み取った青年は少女を見上げて花を投げた
少女は花を拾い胸に抱きしめて笑顔を返した
青年も嬉しそうに笑顔を返し
川岸を登ろうと足に力を入れた
足もとが崩れた
流れに落ちた
川岸の草に手を伸ばしたが掴めなかった
流されながら青年は叫んだ
“ぼくをわすれないで!”
大きなうねりが青年を呑み込んだ

少女は息を呑んだ
何が起きたのか理解できなかった
全身がわなわなと震えた
声が出なかった
青年が見えなくなったあたりを凝視した
体の中を あの声が駆け巡った
“ぼくをわすれないで!”

少女は目を覚ました
真っ白な世界
病室だった
まくらもとに
青い花が生けられてあった

  涼をさがして            中原道代

気温がどんどん上がってきた
今日も猛暑
玄関の戸を開けると
熱風が吹き込んできた
戸を閉めようとして
足元を見たら
かみきり虫が待っていた
涼しい所に入れてくださいと言うように
お断りしても通じない
困っていたら うしろから
大きな手が伸びてきて
虫を ひょいとつまみあげ
木陰につれて行ってくれた
私も暑さにたえかねて
家に入ろうとしたら
こがね虫が石段の片すみで
こっそりと涼んでいた

  宿題                伊藤一路

いつも穏やかでいたい
いつも笑っていたい
いつも優しさで溢れていたい
いつも心が温かくなる時間を過ごしたい

必要な物は自分
どんな風に捉えたり考えたら良いのか
分かっているつもりだけれど
感情が邪魔をする
頭と心がバラバラ
もっと考えなきゃダメだ
もっと勉強しなけりゃダメだ
もっと賢くならないとダメだ
頭はその為にあるのだから
まだまだ続く人生が終わるまでに
この宿題を終わらせないと

  四季のつぶやき           大戸恭子

ポテサラは 副菜なのに 手間かかる

国寒し 寒しと言える 各家族

五月晴れ 踏む道草の 濃い香り

えのき食べ 歯につまらせて えのき食べ

チャーハンで 愚痴も炒めて 混ぜこぜに

美味しさは バランバランと ミギヒダリ

  悪魔の光              大場 惑

少女は
いつものように裏山で遊んでいた
遠くでピカッと光った
何だろうと思ったけれどすぐに忘れた

家に帰ってから体がだるかった
頭に触ったら 髪が抜けた
どうしてだかわからない
そのまま寝込んでしまった
家族が心配して声をかけた
少女は 帰らぬ人となっていた

あの光は
人間の中に住むあやかしが作った
悪魔の光だった
けれど
少女は何も知らなかった