詩誌「詩人散歩」(令和08年春号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  喧嘩別れ              浪 宏友
また 喧嘩別れした
どうして なんで だめじゃない

昨日の夜も喧嘩別れだった
“もう会わないから”と捨てぜりふして
アパートに帰ってから大泣きして
それからやたらに会いたくなって
ベッドにもぐってすすり泣いて

お仕事が終わっていつものところに行く
来てるかな 来てるかな
来てたら 今夜は喧嘩しない
何を言われても うんうんとうなずこう
だろうって言われたら そうだねってこたえよう
そうだ 今夜は そうしよう

居た
待っててくれた
駆け出して
大きな胸に飛び込んで
うれしくて うれしくて
また 泣いた

どうして あのとき
うんうんって うなずかなかったのよ
なんで あのとき
そうだねって こたえなかったのよ
だめじゃない
だめじゃない

なみだがこみあげて止まらない
なみだで なにもかも 見えなくなった
どうして
なんで
だめじゃない

  一粒のごはん            中原道代
米をとぎながら
ある人の話を思い出していた
「おれの奥さんはね
 ごはん粒ひとつ残さないで
 食べてくれるおれを
 結婚相手に選んでくれたんだ」
あの時の彼 いい顔していたなあ

私も一粒も流すまいと
ていねいに米をとぐ
おいしいごはん炊けますようにと
冷たい水で米をとぐ
今日も
「おいしかった! ありがとう」が聞きたくて

なんだか外が静かだなあと思ったら
雪が降り出していた
車が真っ白になっている

  ビダハン族に学ぶ          伊藤一路
アマゾンの深い森の中
「ピダハン族」と呼ばれる人たちがいる
彼らはとても特殊な生き方をしている
彼らには過去や未来という概念がない
朝昼夜という時間軸もない
彼らは眠くなったら寝てお腹が空いたら狩りに行く
だから未来に夢をもったり不安になったり
過去の栄光に縋ったり失敗に囚われたりしない
今必要な事に集中し行動する
そして彼らの尊敬すべきところは
悩んだり悲しんだり落ち込んだりする事が
ほとんど無いという事
鬱になる人も居ない
全てを真似る事はできないが学ぶ事は多い
もちろん先のことを考えて行動することも大切だが
考えすぎて今が疎かになっていないだろうか
もっと今に集中して
良い結果が出て良い未来につながる
そんな生き方に今シフトしようとしている

  四季のつぶやき           大戸恭子
そばを食べ つるりつるりと 年を越す
幼子の 夢がいっぱい ひなあられ
ゼラチンで まねごと羊かん 小豆入れ
少しずつ 指先荒れて 冬が来る
婦警する 男時計の 細い腕
オデンには いろんな奴が 入ってる

  無限輪廻              大場 惑
人影が 歩いている
数知れず 歩いている
同じ方向に 歩いている
ぶつかりそうになりながら 歩いている
しかし だれもが 一人で歩いていると思っている
ずっと向こうに 求めるものがあると思っている

だれも気づかないが
同じ景色が現れては消える
だれも気づかないが
いくら歩いても求めるものに近づかない
だれも気づかないが
ここは無限輪廻の道
だれも気づかないが
地球規模のハムスターホイール