詩誌「詩人散歩」(平成15年秋号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  罪                    浪 宏友

暗い洞の奥から
またも沸いてくるしわがれた声

負った罪を償い損ねて
さまよい続けている幻

身はそれぞれに
しあわせな見かけを暮らしていても
遠い駅に置き忘れてきた野の花が
深い暗闇の底で息づいている

落ちる地面を見失ってしまった枯葉
舞い上がる空を探しあぐねている風船

数知れぬ罪にからまれて
立ち枯れてしまった巨木の洞から

またも沸いてくるしわがれた声

  空                    浪 宏友

悲しみの底から空を見上げていたら
あまりにも青くて深くて静寂で
いつしか
空がそのまま悲しみになっていた

慌ただしく駆け抜けてきた時間
誰かが怒り 誰かが叫び
誰かが嘆き 誰かが笑い
もつれていたあの声たちも
どこかに消えてしまった

疲れ果てた身と心には
あまりにも青くて深くて静寂で
いつしか
悲しみがそのまま空になっていた

  穂高にて(佼成病院で共に働いた仲間との出逢い)   中原章予

お別れして何年になるのでせう
何ら変わることなく若々しく
昨日別れて今日逢ったみたいに
そんな出逢い話しも何らこだわりなく
笑いそして涙して時の過ぎるのを知らず
自分の年も忘れてかたり明かす
三十年いや四十年ぶりの再会
何とすてきな友人達
そんな友を持つ自分は
何と幸せな自分
楽しいすばらしい三日間の穂高
又逢う日をかたくかたく約束し
それぞれ自分の家に向う
その心の中に残る温い温いぬくもり
いつまでもいつまでも残る

  心のあかり                中原道代

子供みこしがこちらにやって来る
車のアクセルを少しゆるめる
今日は上田の祇園祭り
はっぴ姿の子供達
ワッショイ ワッショイ
元気なかけ声がひびいてくる
得意気な顔がたのもしい

ここは私のふるさと
幼いころの祭りの日がなつかしい

家の中は和らいで父も母もやさしかった
灯籠を持ったお姉さんたちの後ろについて歩いた
お祭りワッショイ おみこしワッショイ
私の心は満たされていた
灯籠のやわらかいあかりがゆらゆら揺れていた

あの時からずっと私の心にあのあかりが住んでいる
ずっとこのあかりに照らされてきた
今も このあかりを 大切に守りつづけている

子供みこしはどのあたりを練り歩いているだろう
車はもう篠ノ井橋に差しかかっていた

  無題                   山本恵子

久しぶりに日がさして
窓辺でちょっとねころんで
本を出して目にとまり
私の心を蘇らせた

苦労は宝だと父もいった
人というのは厄介なもの
そのときどきにこころころころ
今日と言うとき二度はなし

鉛筆片手につづる詩も
立ったり座ったり考えて
今夜のメニュウなんにしょうか
里いも大根これいける

  愛猫                   佐藤恵美

とうとう君は逝ってしまった。
部屋の空気も動かない。
君の死と一緒に
凍り付いてしまったみたいだ。
なのに、日常が押し寄せてくる。
君の死の上に薄っぺらな現在が
一枚、又、一枚と重なっていく。
こうやって君は
遠くにいってしまうのだろうか。
そうだ君のお気に入りだったあの出窓に
君の写真を飾ろう。
そして君に、今までどおり
僕の日常を語り続けよう。
毎日 毎日
メリー、メリー、メリー。
ああ、メリー
お願いだ。
僕の傍らで
もう一度だけ
君の寝息を聞かせてくれ。