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ぬかるみ 浪 宏友 |
恋する日々に破れ果てて 静かに立ち去る後ろには 燃え上がり燃え堕ちた熱い心の化石
昨日よりは今日
更けつつあるのか
過ぎ去った時をさぐり
それでも生き続ける
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彷徨い 浪 宏友 |
見上げれば はるかな道のり 振り返れば 一瞬のとき
澄みきった夢に
彗星のように 惑星のように
華やかに咲いた愛も
胸の奥に残る小さなとげはそのままに
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立ち去った後 浪 宏友 |
もう 二度と 会うことはないだろう ぼくの後ろ姿が見えなくなったら 青空をみて それから歩きだしておくれ きみの新しい世界に向かって
たった一度の出会いだったけれど
もう これっきり 会うことはないだろう
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永遠の別れー祖母の死ー 小田嶋紀江 |
祖母がこの世から姿を消した 紫色の唇が“死”を現していた 立派な姿であった 綺麗な超然とした表情であった 今の今まで呼吸していたのに もう天上人 “ありがとう”も“さようなら”も言えぬまま 祖父のところへ逝ってしまった 遺されたたくさんの8ミリビデオと写真 元気だった祖母が笑いかける 涙があふれて止まらない あなたの愛で育てられた私 八月十七日 曾孫の誕生日を選んだのは偶然だろうか 夏生まれの祖母は 好きだった夏の花に囲まれて煙となった あなたの全てを覚えておきたい 形見の服を着て今日も私は日常に紛れる 祖母よ! ありがとう あなたがいたから 私がいる その流れに感謝している
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生と死のはざまで 小田嶋紀江 |
薬をたくさん隠し持っている “いざ”という時の為に 深夜 手首にカッターをあてる 真一文字の赤い線が引かれ うっすらと血が流れてくる ためらい傷は何本もある いつぞやの縫った傷は白く浮き上がっている ビルの屋上にいつも登ってみる 下を見降ろす “死”と“生”は隣り合わせ 「死ぬのが怖いから死にたくなる」 「生を感じる為に死にたくなる」 矛盾の風の中で それでも今生きている 眠ってしまい一生目覚めなかったら幸福だろうか? ー自問自答ー 無常の時の流れを生き続けている いつか “死”は訪れるであろう それまで何とか“生”を全うしたい 生の中に死をみつけるように そんな風に今を生きている |