詩誌「詩人散歩」(平成18年春号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  失恋                   浪 宏友

寒い朝
あなたの愛が
音もなくひび割れる
窓の外は こんなにも明るくさわやかなのに
日の光は少しも射し込んでこない

冷たい午後
あなたの愛が
静かに崩れていく
にぎやかな街路を彷徨しているのに
ものおとひとつ聞こえない

凍てつく夜
あなたの愛が
果てし無く落ちてゆく
穏やかなしじまの底に
散りぢりになって落ちてゆく

闇の中で
ひとかたまりの心が
力なくうなだれていた

  足跡                   浪 宏友

真っ白い朝
田んぼを覆った雪の上に
小さな足跡が
まっすぐに続いていた

真夜中に降り止んだ雪の上を
真っ白な小動物が
一目散に駆け抜けて行ったに違いない

ずっと向こうから走ってきて
立ち止まりもせずに走り抜けて
雪の地平線に消えて行ったに違いない

寒さの中で
立ち尽くしているほかない重たい心を
事もなげに突き抜けて
電光のように行ってしまった見えない影を
まなざしが怠惰に見送っている

  素敵に生きる               中原道代

家の中は静まり返っていた
襖をそっと開ける
ストーブが赤々と燃えていた
傍らのベッドで 貴女は静かに横たわっている
お久しぶりと握りしめたその手は暖かく柔らかかった
やさしい笑顔は昔と変らず
元気な声も懐かしい

ここは かつて 生花教室
おしゃべり好きの生徒達
先生の厳しい声が響き渡る
皆 若くて元気がみなぎっていた
夕涼みをした縁がわ
花であふれていた庭
今は深い雪でおおわれている

いい年月をたくさん重ねて
今 介護師を心待ちにする日々
老いを穏やかに受け止めて
いのちを慈しむように生きている
握り返してくれたその手から
素敵な貴女が力強く伝わってきた

  幸 せ                  中原章予

チョイチョイ チョイヤサのチョイヤサッサ
チョイチョイ チョイヤサのコラサッサ
かけ声も勇ましく
みんなの声援受けながら
豆ボサツがマトイをふる
青空にかわいいマトイが舞う
おおぜいの大人が取りまいて
満面の笑顔で気合を入れる
秋空にかわいいマトイが舞う
何と幸せ 何となごやか
フッと我にかえり 世界中の子供達に
この幸せを このたのしさをと
思わず祈る
チョイチョイ チョイヤサの かけ声の中に
本当の幸せを 世界中の平和を
今 ここに 生かされ生きている
自分のこの幸せに感謝しつつ

  弟                    山本恵子

両親の墓前で話した私
弟を守ってあげてね
できる限り心にとめ会いに行きます
幼少時病弱だった私
弟の苦しみ少しわかる
辛くても話しかできず
頭でつぶる私の返事

余命の程度わからない
この世に生命のあるかぎり
心のこりのないように幸を
與え続けたい いまの私

  心のままに                佐藤恭子

風の中を
雨の中を
まっすぐ ただまっすぐ
この心のままに
心は曲っていても
その心をまっすぐ見つめて
そのまっすぐ見つめる俺に
あいつは照れてたけど
でも嘘をついちゃいけない
自分の心にまで嘘をついちゃいけない
春風が吹く頃
心はきっと幸せの中
今はこんなに寒くても
重いコートを脱いで
土筆んぼうをみつけに
ただ心のままに