詩誌「詩人散歩」(平成20年冬号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  あの人                   浪 宏友

人が 人が 人が
右のほうから 来て 左のほうに 歩く
人が 人が 人が
左のほうから 来て 右のほうに 歩く
人が 人が 人が
延々と 延々と すれちがい 歩く

人を 人を 人を
追い抜き 急ぐ人がいる
前行く人の背中にぶつかり
右に避け
前行く人の背中にぶつかり
左に避け
人を 人を 人を
追い抜き 急ぐ人がいる

人に 人に 人に
追い抜かれ続ける人がいる
背広の紳士に追い抜かれ
学生服の少女に追い抜かれ
真剣な面持ちで急いでいるのだけれど
追い抜かれ続ける人がいる

人が 人が 人が
すれちがい続ける中に 立ち止まる人がいる
行き先を失ったのか
道を間違えたのか
迷路の真ん中に立ち尽くしてしまったのか
人が 人が 人が
すれちがい続ける中に 立ち止まる人がいる

人が 人が 人が
右のほうから 来て 左のほうに 歩く
人が 人が 人が
左のほうから 来て 右のほうに 歩く
その中に
あの人が 歩いている
ただ 真っ直ぐに 前を向いて
口を 一文字に 固く結んで
あの人は 通りすぎ 遠ざかる

人が 人が 人が 歩く
人が 人が 人が 歩き続ける
人が 人が 人が
延々と 延々と すれちがい続ける

  湖畔                    中原道代

清水の豊かな野尻湖
ゆっくり走る遊覧船
波間に揺れる小さなボート
湖面を渡る秋風が
山辺のすすきを震わせた

向こう岸のペンションは
遠い昔の合宿の宿
歌でつないだ仲間たち
みんな若くて純粋で
夢の中で揺れていた
私の青春
鮮やかに生きている

雄大な黒姫の山
秋の色に染まっていく

  ありがとう                  大戸恭子

指にありがとう 爪にありがとう
髪にありがとう 目 口 鼻 耳にありがとう
空気にありがとう 水にありがとう
太陽にありがとう 土にありがとう

あなたにありがとう きみにありがとう
となりのあなたにもありがとう

生まれた事にありがとう
生きてる事にありがとう
年老いていく事にありがとう
死んでいく事にありがとう

みんなにありがとう

  風邪ぎみ                   山本恵子

新年を前に大根採り
鼻も採る風邪ぎみの身に足も痛い
心のゆるみかしら診てもらう
先生曰く冷え込みだからって

本当は年齢のせいといったら笑う
そんなこといってまだ若いよ
私いつまでも若くありたい
まだまだいろんなことしたいから

見るもの聞くもの楽しい
風吹けば吹いたで仕事あり
暑ければ汗がでて身も心も洗われて
人生を楽しく生きたい

  セーター                    山本恵子

若いとき古毛糸で編んだ
今年は少々手をかけて
畑に野菜採りに着て
帰って脱いで考へた

ベランダに日がさして
ポカポカするので
冬はセーターいけるもの
デザイン考え作りだす

七色のネオンのごとく
古着作ってたのしんで
幼き子らのセーターで
思いを込めて温もり感じ

  小さな幸せ                   山本ルイ子

いつもと変わらない電車の中
私は外ばかり見ていた
すると 一人の男性がかけ込んできた
とてもスーツが似合うクールな感じ

それから何度か見かけるようになり
いないと彼を探していた
「今日は残念」と心の中でつぶやく

たった二駅の時間なのに
私にはその二駅が長いような短いような

こんな事を思いながら
今 彼に会える時間が 私の小さな
幸せです

  証                       伊藤一路

満タンのエネルギーで
 昇り始めた太陽
溢れるエネルギーでさんさんと
 照らし続ける太陽
どれだけ望んでも
 静かに沈んで行く太陽
夕暮れ時は少し淋しくも
 感じるけれど

秋の紅葉もキレイな夕焼け空も
これで終わりではない事を
証明する神様の
プレゼントだと 最近気付いた