詩誌「詩人散歩」(令和06年夏号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  バスの窓から            浪 宏友

電車を降りてバス停に急ぐ
いつものバスのいつもの席
後から二番目の右端に座る
バスが出る
いつもの景色が通り過ぎる

バスが左折すると見えてくる
まだ シャッターのあがらない店の角
ハーフコートの少女
いつものように
いつものすがたで
今朝も立っている

たぶん
朝の待ち合わせ
誰を待っているのか
ここで落ち合って
どこへ向かうのか
ここからバスに乗るのか
バスから降りてくる人を迎えるのか

街路樹の陰に入って見えなくなる
その直前
人影が見えて 少女が動いた
あの人がそうだったのか

バスは右折してしばらく走り
いつものバス停で停車する
いつものように降りて
職場までもうひと足
私の今日が始まる

  桜                 中原道代

春 うららかな日
満開の桜並木の下をゆっくり歩いた
いつもの土手が華やいでいる
立ち止まって見上げる顔 顔 顔
みんな 桜に見ほれている
見る人をみんな笑顔にしてくれる
小鳥をやさしく包み込む
真っ赤なぼけの花が
桜を一層引き立てている
私もすっかり桜のとりこになっている

桜の精に聞いてみた
「今 私も いい顔してますかー?」
花の枝が大きくうなずいた
鳥たちが一勢に飛び上がり
花の中に帰って行く
私の心も自由になって
桜にやさしく包まれた

  許す                伊藤一路

許すのか 許さないのか
認めるのか 認めないのか
諦めるのか 諦めないのか
恨むのか 恨まないのか

悶々と囚われる事がある
しかしながらこれらは
全く相手に影響はなく
自分の中だけで起きている

結局しんどくて辛いのは自分自身
自分を苦しめているのは自分自身
そんな馬鹿馬鹿しい事はない

ただ 囚われの過去を捨てて
何もなかったように考えるのは難しい
時間が解決してくれる事ではなさそうだ
本当に許せた時
人はいったいどんな気持ちになるのだろう