詩誌「詩人散歩」(令和06年秋号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  生活の悪魔             浪 宏友

生活の隙間から
悪魔が覗いている
生活の闇に
> 不気味な気配が動いている

  大きな目がひとつ
中くらいな目が あちらに こちらに
小さな目が ひしめきあっている

押し合いへし合いする悪魔たちの圧力で
隙間が押し広げられて
悪魔たちがなだれ込んできたら
好き勝手に生活を食い荒らされて
ぼろぼろになる

必死に隙間を押さえつけて
入り込もうともがく悪魔を追い返し
それでももぐりこんでくる悪魔たちを
打ち伏せ 叩き伏せ

生活は隙間だらけだから
悪魔がいつの間にか入ってきて
生活を食い荒らす
追い返しても
追い返しても

悪魔たちは生活の隙間から
こちらへ飛び込もうと
四六時中 跳ね回っている

  夏の思い出             中原道代

夏の暑い日
うちわを激しくあおいで
「夏は逃げ場がないね」と母が言う
洗たくものを干しながら
「夏はいい! すぐ乾くから」も母の口癖
午後になると
雷様がゴロゴロ鳴って
夕立がやってきた
ひとしきりの雨がやむと
さわやかな風で生き返った
庭の木の葉もキラキラ光り
蝉の声も大きくなった
台所で母は夕げの仕度に忙しい

今 私は涼しい部屋から
焼けつく外をながめながら
こどもの頃の夏を懐かしんでいる

  ありがとうパンチ          伊藤一路

以前は気にならなかった事なのに
最近は感情に影響するようになってきた
怒りっぽくなり気が短くなり・・・
そんな自分がとても嫌なので色々考えた
文句や愚痴が多い人の共通点は
感謝の気持ちを忘れてる人
今の自分も感謝の気持ちが足りない事に気付く
しかしイライラしている時に
どうやって謙虚に感謝の気持ちを持てと?
そこで考えた作戦が
『ありがとうパンチ』
イライラさせる相手に心の中で
ありがとうパンチをお見舞いする
何度も何度も繰り返して
ありがとう!ありがとう!ありがとう!
無理やりでいい 薄っぺらでいい 感情無でもいい
残念な事にこのパンチは相手には全く効かない
ただ不思議な事に自分の感情には効いてくる
スーっと効いてくる
明日からも大丈夫
自分にはありがとうパンチがある         

  惜別                中野典子

しとしとと雨の日
老猫がじっと窓の外を見ている
思い出すのかい?
あの夜を
ものすごい大雨の夜
じっと外のどこかで耐えていたんだよね
翌朝は雲ひとつない晴天になった
ひとり茂みの中で親ネコを呼んでいた君
そこへ動物好きな子供に拾われた
まだ手の平に乗る位小さかった君
あれから十九年
何も言わないが
思い出していたんだろうか?
親ネコ兄弟ネコのことを……
君に聞いてみたい
うちに来て幸せだった?
今までほんとうにありがとう

  すぐ隣で              大場 惑

祭典のすぐ隣で
銃弾が飛び交っている
友情を深めあうすぐ隣で
敵意が燃え上がっている

美しい心と醜い心が入り混じり
愛し合い助け合う清らかなかげと
憎み合い争そい合うどす黒いかげが
複雑に縺れ合い 激しく動揺する

人間の崇高さを歌い上げる隣に
人間の下劣さが次々と顔を出す

あきらめるしかないのか
可能性はあるのか
人は人を滅ぼすのか
人は人を救うのか

これは他人ごとなのか
これは自分ごとなのか