詩誌「詩人散歩」(令和06年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  エーデルワイス           浪 宏友

澤をわたり 雪渓を越え
岩また岩の険しい道を通り 最後の崖をよじ登って
若者は
天国に手が届く山のいただきに登りつめた

若者は 息を呑んだ
真っ白なワンピースの少女が 山頂に立っていた
少女は 振り返り
若者を見て 少し驚いたようだったけれど
すぐに やさしくほほえんだ

若者は 思わず 叫んだ
「ぼくの およめさんに なってください」

少女は 悲しげに首を振り
空を見あげ
両手をのばすと
ふわりと浮き上がった

少女は
  真っ青な空へ溶け込んでいった

何が起きたのか分かりかねて
若者は 少女の消えた空をみつめていた

我に返り
少女のいたあたりを見ると
そこに 真っ白な花が咲いていた

  初秋の風の中            中原道代

外の空気が吸いたくなって
刺しゅうの手を止めた
心地よい風にさそわれて
裏手に廻ると
木の枝からベランダに
大きな蜘蛛の巣がかかっている
中で足長の大きな蜘蛛が動いていた
思わず 私 家に向かって助けを呼んだ
立派な巣だなー! と感心する彼
すまないねと言いながら
長ぼうきでからめ取っていく
蜘蛛をやさしく地面に放した

草を刈って さっぱりした裏庭
見上げれば
空は高く澄み渡っていた
さっきの蜘蛛さんは どこに行っただろう

  僕の勝手              伊藤一路

どうしたら気付いてもらえますか
どうしたら理解してもらえますか
僕の勝手ではありますが
もっと楽になれると思うのです

その方法に根拠はありますか
それしか無いと思っていますか
僕の勝手ではありますが
別の方法を試してみても良いと思うのです

そこに感情は必要ですか
その言葉を選ぶ理由はありますか
僕の勝手ではありますが
感情から出る言葉は要らないと思うのです

なぜ嘘をつきますか
なぜ見栄を張りますか
僕の勝手ではありますが
人をもっと信じても良いと思うのです
僕の勝手ではありますが
もっと楽に過ごせると思うのです