元町
ワゴン車から降りてきた元気な少女に道を訊ねた
はちきれそうな全身を弾ませて
少女は快活に教えてくれた
沈んだ気持ちで降り立った大島だったけど
明るく咲いた大きな花が出迎えてくれた
元町の桟橋から町に出て
今夜の宿を探していたところだった
耐えきれずに乗った船だったから
地図の一枚も持っていなかったから
よそよそしい町に戸惑っていたから
今日は平日だからたいてい何処でも泊まれるという
少女の家も民宿だから泊まってもいいという
ワゴン車の助手席に乗せてもらって
見知らぬ道を走り抜けて
小さな民家に連れられて来た
熱海からほんの一時間ほどだけれど
やはりここは海を隔てた島だった
波の向こうに苦しみが遠ざかって
新しい世界が芽生えてくる
案内してもらった粗末な部屋に
安らかな匂いがたちこめていた