為朝さん
お昼前ののどかな時間
土地の人らしい男に声をかけられて
少女も言葉を投げ返している
男は乱暴に車を発車させて行ってしまった
あの人はタメトモさんなんだよ
少女は笑って家の中に入る
なんのことやらわからないまま黙ってあとに従った
部屋でくつろいでいるとお茶を持って来た
そのまま出ていこうとするのを呼び止めて
さっきのことを聞いてみた
少女は笑って答えない
いったい何があったのだろう
お昼をすすめにきた母親に聞いたら
おかしそうに笑いだした
よその土地から渡ってきて
島の娘と夫婦になった男のことを為朝さんというのだそうだ
狭い廊下を歩きながら
さっきの男を思い出していた
鎮西八郎為朝は
大島に流されて果てたという
為朝の館跡があったり
為朝祭りが催されたり
為朝の子孫がいたりする
為朝さんもいいかもしれないな
部屋に戻りながらつぶやいたが
なんの意味もありはしない