やぶつばき



野増の古い道を歩くと
やぶつばきがたくさん花をつけている
濃い緑の葉が繁る中に咲く花は
ものかげからそっとのぞいている少女の風情だ

やぶつばきに心ひかれて
いつまでも離れずに立っている
春がくれば花は落ちて
ゆずよりもちいさな実がみのる
秋になれば実も落ちて
栗色をした粒がそこら中に転がる
人々は拾い集めて椿油をしぼり
あるいは細工をしておみやげ屋にならべる

足もとから花びらを拾ってみれば
どれもすこうし痛んでいる
雨に打たれたか 虫のためか
風にもまれて耐えきれなかったのか
それでも手のひらで可憐に咲いている

冷たい風 晴れた青空
無口な花たちに心うばわれ
我を忘れて立ち尽くしているうしろから
甲高い声が呼びかけてきた
やぶつばきの続く道を走る車の中
またも少女の脇に座って
たちこめるあたたかさに酔いしれていた

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