夜景



「散歩に行きましょう」

夜だというのに元気な声が飛んできた
断る理由もありはしない
少女の運転する隣に乗り込むと
夜の闇が飛びすさりはじめた

「今夜はよく見えると思うよ」

少女は海岸に車を止めた
海の向こうにひとかたまりの明かりが見える
きらびやかな星が集まった銀河のきらめきだ
どこか遠い本土の町なのだろう
「あれは 伊東 あれは 熱海」

船に乗って逃れてきた町を
こんなに美しく見るとは思わなかった
あの灯火の下でもがいていたなどと
人を愛したり憎んだりしていたなどと

「いいでしょう この景色」

でも 君には大島のほうが似合っているよ
胸の奥からこみ上げてくるものを抑えながら
少女に無言で語りかけていた

次の詩