夜



ものおとひとつない大島の夜
少女が部屋に入ってきた
テーブルの向こうに横座りになって
お茶をいれながら問いかけてくる

東京の裏通りの小さなアパート住まい
なんの変哲もない一人の男が
どこにでもありそうな恋をして
こっぴどく失恋して逃げてきた

問われるままに言葉少なに
要領の得ない返事をする
熱海でおちあうはずだった女にすっぽかされて
衝動的に船に乗ってきたことも

いくじなしのつまらん男さ
胸にわきあがってきた悔しさを打ち消そうと
小声で激しく吐きだしてみたが
そんなことはないよ
少女にきっぱりと遮られた

ものおとひとつない大島の夜
ふたりきりの時間が深まってゆく
どんな運命の仕掛けがあるのかしらないけれど
この静けさは永遠に破れそうにない

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