ランバー 浪 宏 友 |
妙法蓮華経陀羅尼品に、羅刹女が登場します。羅刹とは、通力を用いて人をたぶらかしたり、害したりする鬼です。 観世音菩薩普門品には、観世音菩薩の名を唱えれば、羅刹に悩まされたり害されることはないと説かれています。 陀羅尼品では、羅刹女たちが、仏教を守護する誓いを立てています。釈迦牟尼世尊の教化を受けて仏性に目覚め、菩薩の道を歩み始めたのです。 ここには鬼子母も登場しますが、こちらは夜叉女です。人の子をさらって食べてしまうという鬼女でしたが、釈迦牟尼世尊に諭されて、今は子供を守る神さまになっています。 陀羅尼品には十人の羅刹女の名前があり、その先頭が藍婆(らんば)です。インド神話に出てくるアプサラスのランバーです。 アプサラスとは、水の精とも天女とも言われ、神々に仕える美しい踊り子たちとも言われています。普通はガンダルヴァを配偶者にするとされますが、ガンダルヴァは音楽を奏する半神ですから、音楽と踊りが結びついたのかもしれません。 ついでながら、古代インドでは、ガンダルヴァ婚という婚姻法があったそうです。娘とその恋人が、自分たちの意志によって結びつくという、いわば自由恋愛による婚姻です。若い男女の情熱によって結びつくということから、音楽の神ガンダルヴァが持ち出されたのでしょうか。 インドの最古の神話の一節に、ヴィシュヴァーミトラの話があります。 彼は当初は武人でした。あるときバラモンのヴァシシタ仙と争い、完膚なきまでに打ちのめされました。ヴィシュヴァーミトラは武人としての力に限界を感じ、武人を捨てて激しい苦行に入りました。一千年後、梵天は彼の苦行を認め、王仙の位を授けました。しかし、彼はそれに満足せず、さらに高い境地を目指して苦行を続けます。 これに危険を感じた帝釈天は、アプサラスのランバーに、王仙を誘惑して苦行を中断させるように命じました。ランバーは王仙の力を知っていましたから、恐れて尻込みしましたが、帝釈天は自分も一緒に行くからと言って承知させました。 ランバーは全力を傾けて王仙を誘惑しました。さすがの王仙も、美しい天女に一瞬心を奪われかけましたが、近くに帝釈天がいるのを見て策略に気付きました。 怒った王仙は、ランバーに向かい、一万年の間、石になっておれと呪いました。こうしてランバーは石と化し、帝釈天は逃げて行ってしまいました。 ランバーには、このほかにもいくつかのエピソードがありますが、どれも美しさゆえに苦しみを招く物語でした。 ランバーも、釈迦牟尼世尊の教化を受け、仏教を守護する立場になりました。今は、悲劇に見舞われることもなく、充実した毎日を送っているに違いありません。
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