詩誌「詩人散歩」(令和06年春号)

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◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  「ネパール山岳地帯のため池」       浪 宏友


 公益財団法人国際開発救援財団、通称FIDR(ファイダー)は、開発途上国の子どもたちの生活・福祉を改善しようと一九九〇年に誕生した国際協力NGOです。東京神田駿河台を拠点に、カンボジア、ベトナム、ネパールに現地事務所を置いて活動しています。
 ネパールは、仏教研究者の私としては、興味のある地域です。お釈迦さまが産声をあげられたルンビニーの園は、ネパールにあります。青年時代を過ごされたカピラ城もまた、ネパールにあるという説が有力なようです。
 「FIDR NEWS」で、ネパールの記事を読みますと、いくつかのキーワードが見られます。そのひとつが「ため池」です。「ため池」というのは、降水量が少なく、河川に恵まれない地域などで、農業用水を確保するために、人工的に造成された池のことです。
 ネパールでは、六月から九月が雨季、十月から五月が乾季といわれ、とりわけ十一月から二月の間などは雨量が極めて少ないようです。雨で畑が潤っている間は野菜などを栽培して収穫できますが、これが過ぎると何もできないということのようです。
 また、ネパールでは、高地に住む人々が生活用水、家畜の飲み水、農業用水そのほか必要な水が不足しているという状況だと聞きます。山岳地帯では、水はそちこちに流れていますが、住居からは遠くて、毎日のように、女性たちや子供たちが、時間をかけて汲みに行っているということのようです。
 これを知ったFIDRの皆さんが、現地で入念な調査を行ない、ニーズを確かめ、そのニーズに応じた対策を検討して、住民に「ため池」を提案したのでありましょう。
 土地の人々は、思いもかけない提案に、はじめは戸惑ったことでしょう。このとき、FIDRの方々は、相手の身になって、粘り強く話し合いを進めたに相違ありません。
 ようやく理解できた住民たちに、「ため池」の作り方や、雨水のため方、水源からため池に水を引く方法、メンテナンスの方法などについて、話し合いながらリードしたのでありましょう。そこには、一緒に考え一緒に苦労するというFIDRの精神が込められていたに違いありません。
 「ため池」ができると、その水を利用することによって、これまで乾季には栽培できなかった農作物が、栽培できるようになりました。これによって、農家の収入も増えたという喜びの声も上がっているようです。「ため池」の水は、農業以外にもさまざまな使い道があって、人々の生活改善につながっているようです。
 住民たちが自分たちの抱える問題を認識し、自分たちの努力で解決して、豊かな毎日を生み出していく。
 そのようになることを願いつつ、FIDRの方々は、住民だけではまかないきれない資材や、知識・技術を提供し、寄り添うようにサポートをして、目的に向かって歩み続けているという印象を受けました。
 言うは易く行なうは難い道のりを一歩一歩進めていく、FIDRの方々の努力に改めて敬意を表したいと思います。
 公益財団法人国際開発救援財団(FIDR)のホームページは、「https://www.fidr.or.jp」です。ぜひ、アクセスしてください。FIDRの幅広い活躍と成果をお知りになることができると思います。(浪 宏友)