「もうひとつのスポ根」 浪 宏友 |
私と同年輩の友人Mさんの、高校時代の話を聞いたとき、これは、もうひとつのスポ根(スポーツ根性物語)だなと思いました。スポ根にも、いろいろなジャンルがあるようですが、Mさんの場合は、おそらく、そのどれとも違う、独特のものだと思います。 Mさんは、高校生時代、卓球に打ち込んでいたそうです。実はMさんは視力が極端に弱いと聞いています。世界的にも珍しい目の難病に罹っておられるのだそうです。お話の様子ですと、高校時代もすでに視力はかなり弱かったと思われます。その状態で、卓球に打ち込んでいたというのです。Mさんが、世間話のようにその話をしてくれたとき、私は緊張感を覚えました。凄まじい話だと感じたからです。 Mさんの入った卓球部は、ありていに言って弱かったようです。その卓球部が、Mさんが入ってから雰囲気が一変し、さらに好敵手Y君の入部によってぐんぐんと強くなり、ついに地区・県・北陸の3大会で初優勝したのです。すごい人だなと、私は心の底から感嘆しました。 Mさんは、私の目には、誠実な精進の人と映っています。これと思った道を、まったくぶれることなく、心を込めて歩み続けるからです。卓球部でも、日夜、精進に明け暮れたのでありましょう。 しかし、卓球大会は団体戦です。Mさん本人が強くなっただけでは優勝できません。Mさんの本当のすごさは、卓球部員みんなを強くしたところにあるのです。 どうやって、Mさんは、卓球部員みんなを強くしたのでしょうか。私は、Mさんとしては、取り分けたことをしたという意識はなかったと推察しています。大好きな卓球一筋に、自分のやるべきことを手抜きせずに、誠実に、怠けることなく続けたのだと思います。純真な高校生である卓球部員たちは、Mさんのすがたに触発されて、自から練習に打ち込んだのではないでしょうか。 もうひとつ、Mさんには人を包み込んで止まない不思議な雰囲気があります。卓球部員たちは、Mさんのこの雰囲気に惹きつけられたのだと思います。そして、みんな異体同心にまとまり、強いチームに育ったのでありましょう。 Mさんは、その後、人生指導者としての道に入り、多くの人びとを救ってきました。八十歳を越えたMさんは、なおも、周囲の人々を温かい人柄に包み込みながら、人生を誠実に歩み続けています。 |