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[経営コンサルタントとして学ぶお釈迦さまの教え]−部下を成功させる上司  浪 宏友


原因・結果の原理

 中小企業経営者の勉強会に講師として招かれたときに、「原因があって結果があります」と、お話しますと、皆さんうなずいてくださいます。
 「原因があって結果がある」という法則は、いわば、当たり前のこととして、受け入れられているようです。

 「原因があって結果がある」という法則を丁寧に見ていきますと、次のようなことが分かります。

 ・原因があって、結果がある
 ・結果があるからには、原因がある

 ・原因を作れば、結果が生じる
 ・原因を作らなければ、結果は生じない

 ・結果が欲しければ、原因を作ればよい
 ・結果を無くしたければ、原因を無くせばよい

 また、次のことがいえます。
 ・現在起きていることは、結果である
 ・すでに作った原因と、すでに生じた結果は、取り消すことができない
 ・知らず知らずに作った原因であっても、結果は法則通りに生じる

 まだまだありますが、「原因があって、結果がある」について考察しますと、こうした法則を見出すことができます。私は、これらを総称して「原因・結果の原理」と呼んでいます。

ある社員の失敗

 ある社員が、仕事で失敗しました。上司はカンカンに怒って、怒鳴りつけ、ながながと説教しました。そうして、二度とこんな失敗をするなと、きつく言い渡して、解放しました。

 怒鳴り声と説教から解放された社員は、失敗の原因を考えました。それは、この仕事をしたことでした。この社員は、二度と失敗しないために確実な方法を考えました。それは、今後、この仕事をしないことです。

 上司はどうでしょうか。
 原因・結果の原理は、「現在起きていることは、結果である」と言っています。この社員が失敗したことは、結果と受け取るべきです。
 「結果があるからには、原因がある」ですから、この社員が失敗したには原因があります。
 しかし、この上司は、失敗の原因には目を向けず、ただただ、失敗したという結果ばかりを責め立てました。

 この上司は、原因・結果の原理を知らないようです。知識としては知っているかもしれませんけれど、使い方を知らないようです。
 原因・結果の原理を知らないとか、知っていても正しく使えないことを、仏教では、智慧が無いと言います。この上司は、智慧が無いのです。
 この上司は、失敗した社員に対して、「怒りつけ、説教すれば、失敗しなくなる」と思ったのかもしれません。確かに、この社員は、この仕事では、今後、失敗しないでしょう。なにしろ、この社員、この仕事はしない、命じられたら逃げると、心に固く決めてしまったのですから。

スキルがなかった?

 現在起きていることは、結果ですから、この社員が失敗したことは結果です。結果があるからには、原因がありますから、この社員が失敗したには原因があります。
 そこで、智慧のある上司は考えます。どんな原因があったのだろうか。
 この社員には、この仕事を遂行するスキルが、なかったのだろうか。スキルがない社員に仕事を命じたとすれば、上司である自分の失敗だ。
 そこで、この上司は、この社員に謝ります。
 「お前に仕事を命じた俺が悪かった」
 そして、付け加えます。
 「これからお前にこの仕事をやらせたいから、スキルを磨いてくれ」

 そうです。「結果が欲しければ、原因を作ればよい」のですから、スキルが必要なら、身につければいいのです。本人がその気になって、学び、訓練を受け、経験すれば身に着きます。上司は、そのための環境を作ってあげればいいのです。

スキルはあるのに

 間違いなくスキルのある社員に仕事を命じたけれど、失敗するということもあります。この場合の失敗の原因は、簡単ではありません。慎重に見極める必要があります。
 体調はどうでしょうか。仕事の前に、自分の体調を自己申告する会社があるそうですね。
 精神状態はどうでしょうか。家庭に心配事があると、事故を起こしやすいというデータがあると聞きました。特に、夫婦喧嘩は、かなり大きな危険のファクターであると言われています。
 生活の状態はどうでしょうか。生活が荒れていると、心も荒れますから、仕事に実が入らなくなることも考えられます。夜明けまで酒を飲んで、工事現場に行き、客先から酒臭いとクレームがついて、慌てて交代要員が派遣され、その後解雇された職人がいました。
 社内の人間関係はどうでしょうか。いじめなどに合っていると、落ち着いて仕事をすることができません。上司と喧嘩でもしていたら、わざと手を抜くことだって考えられます。
 社員が仕事を失敗したとき、その原因を探り当てて、正しく対処することが、上司には求められます。

部下を成功させる上司

 「経営者の役割は、社員に成功させることである」という言葉は、言い得て妙であると思います。社員みんなが、仕事に成功する会社なら、顧客も安心して利用できます。こういう会社ならリピーターも多くなり、経営は安定することでしょう。
 これは各部署の上司にも言えることで、「上司の役割は、部下に成功させることである」と言って良いわけです。
 部下が失敗ばかりしていれば、上司である自分が失敗ばかりしているということになります。社員は、そんな上司の部署になど、配属されたくは無いでしょう。
 部下が成功を続けている上司は、上司である自分が成功を続けているということです。社員は、そいう上司のもとで働きたいと思うでしょう。
 上司になったら、「よし、部下に成功させてやるぞ」と、自分に気合を入れてもらいたいものだと思います。

 どうすれば、部下に成功させることができるのでしょうか。
 原因・結果の原理は、「結果が欲しければ、原因を作ればよい」と言います。  部下の持つ原因のひとつは、なにはともあれスキルです。部下のスキルに応じた仕事を与えるのです。そうすれば、成功します。成功したら、一緒に喜んであげます。すると部下は喜んで、もっと成功したくなります。モチベーションが高まるのです。モチベーションもまた、仕事が成功するための重要なファクターです。

 部下にできないことをやらせて、失敗させ、なにくそという気持ちを起こさせて、頑張らせる。そういうのがいいんだと考える方もいらっしゃるようですが、そうした離れわざが使える部下は、ほんの一部に限られると思います。
 やはり、通常は、できることをやらせて、成功させて、一緒に喜ぶのがよいと思います。

 自分のできることを命じられて、成功して、上司が喜んでくれると、部下は、また成功したくなります。前向きな部下なら、もっと高度な仕事で成功したくなります。そういう気持ちになった部下には、一段高度な仕事を命じるのです。そして、その仕事を推進するスキルを身に着けさせるのです。モチベーションの高まっている部下なら、スキルを身につけるために努力します。
 これを繰り返していけば、この路線に乗った部下は、確実に成長します。そして、成功をくりかえし、上司の面目を施してくれるのです。

部下を成功させるスキル

 原因・結果の原理は、「結果が欲しければ、原因を作ればよい」と言っています。
 自分の面目を施してくれる部下が手元に居るという結果が欲しければ、原因を作ればいいのです。それが、部下を成長させるという施策です。
 部下を成長させることができるのは、上司である自分です。ということは、自分に、部下を成長させるスキルがあればいいのです。
 それは、易しいことではないと思いますが、手が届かないほど難しいことでもありません。
 部下を成功させてあげたいという思いを持ち、成功できる仕事を与え、成功したら一緒に喜んであげる。これが基本です。
 あとは、部下に寄り添って、一緒に苦労しながら、自分の指導者としてのスキルを向上させればいいのです。