「作詞紹介」       浪 宏友著
<< First Page  ◆◆◆詩人「浪 宏友」の作詞集のご紹介です。◆◆◆

 浪 宏友作詞集 「水たまりの天使」 −作曲:稲垣卓三−

水たまりに映っている空に天使がいた
雨雲が去ったあとにはまだ晴れきらない半透明の空がある
トンガリホルンが水たまりからひびくので
通りががりの若い女のフレヤースカートにまつわるので
リンキの風が水たまりをこまぎれにしてしまうので
たくさんの天使のたくさんのホルンが
水たまりからいっぺんに響くので
水たまりに映っている空から小鳥が一羽浮かび上って
たちまちはばたいて半透明の空にまぎれていった

    (1999年)

 浪 宏友作詞集 「ものかげ」 −作曲:稲垣卓三−

そこにいるのは だれ ですか
小声でつぶやいているのは だれ ですか
恋が忘れられた日々
通りがかりの暗い小道のものかげから
ぼくを呼びとめてしまったあなたは だれ ですか

忘れ果ててしまった日々を
再びぼくにつくるのは やめて ください
あなたがものかげから姿を見せたら
忘れ果ててた日々が再びめぐってきそうだから
そこから立ち上がるのは やめて ください

ぼくはいつまでも立ちどまって
暗い小道のものかげでつぶやくあなたを
あなたの声を見つめつづけて
忘れ去った日々を再び見つめて
忘れ去ったはずの日々を再び見つめつづけようとして

そこにいるのは だれ ですか
小声でつぶやいて
ぼくを呼びとめてしまったあなたは だれ ですか
明日があるのなら
今夜はこのまま
あなたを見つめつづけていたい

    (1999年)

 浪 宏友作詞集 「乳房色の小鳥」 −作曲:稲垣卓三−

きみの乳房を小鳥がついばんだ
小鳥は乳房と同じ色になって
君の夢から姿をあらわした
眠る君の涙の川から魚が幾匹か空中へ跳ねた
それはみんな乳房色の小鳥だった

きみは雪野原に湧く温泉だった
人里離れた山あいの凍てつく吹雪を温めていた
吹雪はみんな小鳥だった乳房色した小鳥だった
ねむるきみをやわらかく包むと
見知らぬふるさとは羽ばたくのだった

    (1999年)

 浪 宏友作詞集 「ましまろに沈んでゆくぼく」 −作曲:稲垣卓三−

ましまろに沈んでゆくぼくでした
食べながら沈んでゆくぼくでした
落ち込んだ穴は見上げても見えない
ぼくの重みがましまろには支えきれないので
いつまでも沈んでゆくぼくでした

うすぐらい夕方ふもとを歩くと
凍りついた時間がぼくを押しのけ
山頂は時のむこうでもだえていました
うすぐらい夕方に閉じ込められて
ますます重くなってゆくぼくでした

土間にすわって木を削っていると
切りくずたちがぼくのまわりを
駆けずりまわってはしゃいでいる
寒さしのぎの小さな火が外の風におびえている
土間にすわって木を削ると
ナイフの音がやさしくひびく

真暗なましまろをかきわけかきわけて
さまよい歩いているぼくでした
ひとあしひとあし沈んでゆくけれど
いつまで経ってもましまろの中でした
ぼくの重みがましまろのどこかでなくなるまでは
支えきれないぼくの重みで
ますます暗くなるましまろでした

    (1999年)

 浪 宏友作詞集 「雪の東京」 −作曲:中村正行−

母さん おからだいかがです
電話じゃ見えない故郷の
雪が東京に降りました
走りまわって雪野原
凍えて帰って叱られて
炬燵ですすった甘酒が
一人暮らしによみがえる

母さん 私は元気です
淋しいときもあるけれど
口を結んで立ち上がり
朝のバス停に向かいます
雪に凍った東京の
表通りに飛び出して
今日も仕事に出掛けます

母さん 元気で待っててね
東京の雪はすぐ消える
ひと冬積もる雪国に
私ももうすぐ帰ります
一人暮らしの裏通り
ちょっぴり遠いふるさとに
今夜も降ってるボタン雪

    (1999年)

 浪 宏友作詞集 「あんたのせいよ」 −作曲:中村正行−

私はあんたが大好きなのよ
それでもあんたがぐずぐずしてるから
あいつがどんどん接近してくる
私はあいつに引っ張られる
私はあんたから離れていく
どうにかしてよ 早くしてよ
なんとかしてよ 早くしてよ
間に合わなかったら あんたのせいよ

私はあんたを待っているのよ
けれどもあんたが煮え切らないから
あいつがぐんぐんラブコールする
私はあいつに引っ張られる
私はあんたから離れていく
どうにかしてよ 早くしてよ
なんとかしてよ 早くしてよ
間に合わなかったら あんたのせいよ

私はあんたがじれったいのよ
それでもあんたは黙っているんだもん
あいつがとうとうプロポーズした
私はあいつに引っ張られる
私はあんたから離れていく
どうにかしてよ 早くしてよ
なんとかしてよ 早くしてよ
間に合わなかったら あんたのせいよ

    (1999年)