【表紙の話】
「わすれぐさ」というと、「わすれなぐさ?」と聞き返されます。そうではありません。「わすれぐさ」です。「忘れ草」と書きます。「わすれなぐさ」は「勿忘草」です。
ドイツの物語です。若者は、ドナウ川の岸辺に咲く青紫の可憐な花を恋人に捧げようと岸を降りました。手を伸ばし、花を手折ったとき、足元が崩れ、川に落ち、急流につかまってしまいました。若者は花を岸に投げながら「僕を忘れないで」と叫んで姿が見えなくなりました。あまりのことに驚き、泣き暮れた恋人は、若者の墓にその花を供えました。これが「勿忘草」の伝説です。
奈良時代でしょうか、中国から「忘憂草」、憂いを忘れる草の名で伝わってきたのが「忘れ草」です。万葉集には、忘れ草を詠みこんだ歌がいくつも見られます。そのひとつ。
「我が宿の 軒にしだ草 生ひたれど 恋忘れ草 見れどいまだ 生ひず」
我が家に羊歯(シダ、ノキシノブでしょうか)が密生したけれど、恋を忘れさせてくれる忘れ草は、いつまでたっても生えてこないと歌っています。
キスゲ、ユウスゲ、ヤブカンゾウなど、忘れ草の仲間は少なくないようです。本誌の表紙写真は、ヤブカンゾウです。近くの河原で撮影しました。
花が一日で終わると考えられて忘れ草と呼ばれるようになったと言われています。英語では DayIily と呼ばれます。その日限りのリリー(ユリ)というほどの意味でしょうか。
ヤブカンゾウは、花が終った後に何も残りません。実を結ばず、種ができないのです。その意味でも、忘れ草なのかもしれません。(浪)
【本号投稿者】
櫛田 令子(東京都杉並区)
伊藤 一路(東京都豊島区)
山本ルイ子(東京都豊島区)
大場 惑(東京都杉並区)
中原 道代(長野県長野市)
【奥 付】
詩誌「詩人散歩」平成27年秋号
平成27年9月1日発行(通算第106号)
編集者・浪 宏友
発行者・菊地良輔
発行所・夕焼けクラブ
詩人散歩編集部
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