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[経営コンサルタントとして学ぶお釈迦さまの教え]−シンガーラへの教え2  浪 宏友


十四の罪悪

 『シンガーラへの教え』の二回目です。
 毎朝、身を清めて六方(東・南・西・北・上・下)を礼拝していた若き長者シンガーラは、声をかけてくださったお釈迦さまに、正しい礼拝の仕方を教えてくださいとお願いしました。
 若き長者シンガーラは、現代で言えば、中小企業経営者のような立場だったのかもしれません。

お釈迦さまは、シンガーラに、十四の罪悪を行なわないというお話を始められました。悪いことをしない自分になることが、正しい礼拝への入り口なのです。
 「悪い行ない」とは、仏教では、「真理から外れたことを行なう」ことです。
 「善い行ない」とは、「真理に合ったことを行なう」ことです。

 お釈迦さまは、シンガーラに、十四の罪悪についてお説きになりました。
 「四つの行為の汚れ」
 「四つのしかたで悪い行為をなす」
 「財を散ずる六つの門戸」
合わせて十四の罪悪です。

 「四つの行為の汚れ」については、前号で学ばせていただきました。
 「財を散ずる六つの門戸」については、次号で学ばせていただく予定です。
 今回は「四つのしかたで悪い行為をなす」について、学ばせていただこうと思います。

悪い行ない

 悪因苦果という法則があります。真理から外れた悪いことを行なうと、苦しい結果が生じるという法則です。知らず知らずのうちに行なった悪いことでも、苦果を生じます。自分には覚えがないのに、苦しことばかり起きてくる。そんなときには、これまでの自分の行ないを、八正道や六波羅蜜に照らして確かめてみる必要があります。

 また、悪因悪果という法則があります。悪いことを行なうと、ますます悪いことがしやすくなるという法則です。ますます悪いことをすれば、ますます苦果が生じます。
 これでは、悪因苦果と悪因悪果のスパイラルです。こんなスパイラルからは、一刻も早く抜け出さなければなりません。

四つのしかたで悪い行ないをする

 お釈迦さまは、シンガーラに、「人は四つのしかたで悪い行ないをする」と教えます。人間が悪いことをする原因は四つあるということです。

 人が、惡を行なってしまうのは、自分の中に、惡を行なう原因を持っているからです。
 自分の中に惡を行なう原因があるなんて、とても信じられません。信じたくありません。しかし、一度立ち止まって、自分を振り返ってみるのも無駄ではありますまい。

 人は、心の中に、次の四つがあると、悪い行ないをするのです。
 「貪欲」があると、悪い行ないをします。
 「怒り」があると、悪い行ないをします。
 「迷い」があると、悪い行ないをします。
 「恐怖」があると、悪い行ないをします。
 こうした原因が自分の中にあるあいだは、意識的、無意識的に、真理から外れた悪いことを、行なってしまいます。

貪欲

 人は、快い思いをしますと、そこに引き付けられ、あれが欲しい、これが欲しいと思い始めます。欲望が生じるのです。
 人が生きていくためには、食欲・性欲・睡眠欲・集団欲などの欲望が必要です。こうした欲望が健康的に満たされるのは望ましいことです。

 しかし、欲望はだんだん大きくなります。欲しい、欲しい、もっと欲しいと、必要以上に欲しがります。欲望が肥大化するのです。肥大化した欲望は、欲望の対象を手に入れるために、道に外れたことを行なうようになります。歪みを生じるのです。こうして、肥大化し歪みを生じた欲望を貪欲(とんよく)と言います。
 自分の中に貪欲があると、我知らず、真理から外れた悪い行ないに走ります。

怒り

 貪欲があると、自分本位の思いを持つようになります。ものごとを、自分の思うようにしたいと思います。他の人は自分の思い通りに動くべきだと思います。しかし、ものごとも、人も、自分の思い通りにはなかなかなりません。すると、怒りを発します。
 怒り続けていると、心が常に怒りに満ちていて、ちょっとしたきっかけで爆発したりします。
 こういう状態で、善いことが行なえるはずがありません。そこから出てくる言葉や行為は、ものを破壊し、人間関係を破壊し、自分を破壊し、自分の人生を破壊します。

迷い

 迷いとは、自分の苦悩に関する迷いです。自分の苦しみに正しく向き合い、正しく理解し、正しく取り組むことができないのです。
 苦悩から抜け出したいばかりに、貪欲をつのらせ、怒りを発します。そして、ますます苦悩を深めます。
 真理に生きる智慧を学び、理解し、実践するまで、苦悩が止むことはありません。

恐怖

 目の前で起きていることに身の危険を感じるのは、恐怖です。
 これからさき、起きるかもしれないことに、身の危険を感じるのは、不安です。
 ここでの恐怖は、この両方を指しているように思います。
 恐怖や不安の坩堝(るつぼ)に堕ち込んでいると、ものごとに正しく向き合うことができず、正しく行動することが難しくなります。

惡を行なう四つの原因

 貪欲・怒り・迷い・恐怖という四つの原因を自分の中に持っていますと、どうしても真理から外れた惡いことを行ないがちとなり、苦しみを生みます。
 前回学んだ悪い行ない、「生きものを殺すこと、与えられないものを取ること、欲望に関する邪な行ない、虚言」も、こうした原因から起きているのです。

惡を行なう四つの原因を無くす

 お釈迦さまは、シンガーラに、自分の中にある惡を行なう四つの原因を捨ててしまいなさいと、説いておられます。しかし、『シンガーラへの教え』では、これらの原因を無くす道は説かれていません。
 阿含経の他の経文に説かれている、四聖諦・八正道の教えを学び、理解し、実践すれば、これらの原因を無くすことができます。自分の健やかな人生を取り戻すために、是非とも学んでいただきたいと思います。

(「シンガーラへの教え」の経文は、中村元監修『原始仏典第三巻 長部経典V』(春秋社)所収の「シンガーラへの教え 善生経」をもとにしております)